2012年4月アーカイブ

歯石の表面は細菌だらけ。取り除く必要があります
 ほとんどの人が悩まされる虫歯も、意外と知らないことばかり。ここでは、ちょっと変わった視点から虫歯の知識を紹介します。

■歯石の下に虫歯はできにくい!?■

 イメージ的には歯石は悪者。何となく歯石があると虫歯になるような感じがしませんか? 実は、歯石の下に虫歯ができることはまれ。歯石は虫歯の原因の歯垢が、唾液によって固まってできることがあるからです。

 虫歯の原因の歯垢は、まずエナメル質に付着しますが、唾液中のカルシウムイオンなどが歯垢を石灰化して固めてしまうことがあります。これが歯ぐきの上にできる歯石。完全に石灰化すると、虫歯菌は活動できません。このため、歯石が付着している直下のエナメル質は、酸により溶かされた穴になりにくいのです。

 すると歯石は取らなくても良い?と思ってしまいそうですが、違います。問題になるのは、歯石の内部ではなく表面。歯石の表面は細菌の活動が活発なのです。歯石の表面はツルツルした歯の表面に比べてかなり凸凹で、この凸凹に歯垢が次から次へと集まります。そのため歯石の表面が歯ぐきに触れるようになると、今度は炎症を起こし歯周病になってしまうのです。

■外側に穴がない、不思議な虫歯■

 虫歯と言えば、入り口の小さな穴があって内部が広がっているのが定番ですが、実は穴がなくても内部が虫歯になるケースも少なくないことをご存知ですか?

 この不思議な虫歯は、まずエナメル質が溶かされて、内部の象牙質に虫歯が入り込む順番は一緒。虫歯が内部の象牙質に侵入したのにも関わらず、唾液が外側のエナメル質を修復(再石灰化)してしまうのです。

 すると、歯の表面は穴がなく、まるで虫歯が歯の中に閉じ込められたようになり内部に進行します。穴の入り口の見た目が分からないほど完全に修復されることはまれで、よく見るとチョークのような白いぼそぼそした状態だったりします。

 こういったケースは、歯と歯の間にできた虫歯などでときどき見かけます。穴がなくても内部の虫歯が変色していることが多く、検診でもすぐに見つかるのでご安心を。

■虫歯と歯石の不思議な関係■

 普段、口の中はほぼ中性~弱アルカリ状態だと言われています。食事をするたび歯垢の中の虫歯菌が酸を出し、歯を溶かします。ちなみに歯が酸で溶け出すのは、成人の永久歯でpH5.5付近。歯に優しい食品の中には、食べても歯の表面がpH5.7以下に下がらない食品もあります。レモンなどの酸性食品を頻繁に摂り過ぎると酸蝕症と言って、歯の表面が溶けだしてしまうこともあります。
...
一方、歯石が作られやすい環境はアルカリ性。アルカリ性では歯が溶けないため、虫歯にならなくなります。その代わりに歯石ができやすくなるのです。

 人の持つ優れた防御機能でも、現代人の生活環境では、虫歯や歯周病を防ぐことができません。毎日の手入れを行ないながら、定期的検診などを上手に利用するのが、歯を長持ちさせる秘訣です。
傾斜(スロープ)を利用した健康運動「スローピング」が関心を集めている。坂道や階段の上り下りを繰り返すだけ。特別な器具がいらないお手軽な運動にもかかわらず、ウオーキングを上回る効果が見込めると専門家は指摘する。普段使わない筋肉を鍛えられ、心肺機能の向上も期待できるという。実際に導入する自治体も出始めた。

「スローピング」に取り組んで効果をあげている「デイサービス邑」(東京都大田区)

 「イチ、ニ、イチ、ニ......。はい、ちょっと休憩しましょう」――。東京都大田区にある「デイサービス邑(ゆう)」で、掛け声が響く。介護が必要な高齢者18人が上り下りの動作を繰り返していた。体力測定の踏み台昇降のような動きだが、段差は10センチメートルほどに抑えている。思うように脚が動かず苦労はしているものの、手すりを握っている姿はみな懸命だ。

 この施設は7年前、運動メニューの中にスローピングを取り入れた。ストレッチやスクワットの後に、踏み台でスローピング運動をする。3分間の昇降を休憩を挟みながら10回繰り返す。1年半前から施設に通う92歳の男性は「スローピングを始めてから、しっかり歩けるようになった。他のみんなも元気になったようにみえる」と笑顔で話す。

 「90歳を過ぎても、運動能力が向上する高齢者を何人も見てきた。来所当初は携帯酸素ボンベを手放せなかったが、スローピングを始めてから持ち歩く必要がなくなった人もいる」。デイサービス邑に勤める介護士、幸島アキ子さんはこう話す。介護士や家族の負担を減らすことにもつながっているという。

◆山岳地帯にヒント◆

 スローピングは埼玉県に暮らす奈良岡治成氏が考案。1997年に国際スローピング協会を設立し、普及活動を進めてきた。「ヒマラヤなど山岳地帯や高地に暮らす人は足腰が強くて寿命が長い。これをヒントに高低差を利用した運動法を思いついた」と奈良岡氏は説明する。手軽な運動で高齢者向けと思いがちだが、中年や若者にも効果がある。

 実践する場所は階段でも坂道でも構わない。階段を使うときは、まず前向きで5~10段上り、次に体の向きを変えずに下る。こうした動作を繰り返す。背筋を伸ばし、靴底全体で着地するよう心掛けるのがポイントだ。最初のうちは10分を目安にし、慣れてきたら20分間続けるように心がける。

 坂道の場合、初心者なら傾斜が5~10度の道を選び、100歩ずつ上り下りを繰り返す。20分程度、20往復を目安にする。自分のペースで距離や時間を徐々に延ばしていけばよい。腕をしっかり振り、できるだけ大股で歩くと効果は高くなるという。

◆特別な器具不要◆

スローピングはウオーキングなどの有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせた運動といえる。運動法の効果を研究する早稲田大学の川上泰雄教授は「平らな場所を歩くウオーキングに比べ、同じ時間で5倍の効果が期待できる」と強調する。階段を上り下りする動作は平らな場所を歩くときよりも高く蹴り上げるため、歩幅が広くなり、つま先が上がって転倒しにくくなるという。

 「思うように歩けず、つえをついてやっと歩ける人に向いている」。提唱者の奈良岡氏が高齢者向けと勧めるのが「1段活用法」だ。ひとつだけしかない低い段差の踏み台を使い、昇降動作を繰り返す。市販の踏み台を活用できるほか、牛乳パックや段ボール箱も流用できる。冒頭に登場するデイサービス邑以外にも導入する介護施設は出てきた。青森県深浦町は昨年、専用の昇降台を購入し、各地の集会所で高齢者向けのスローピング教室を実施している。

 「スローピングは高齢者の生活の質の向上につながる」。スローピングを推薦する弘前学院大学の吉岡利忠学長はこう言い切る。「医療現場で活用するのはもちろん、若いときから続ければ、生活習慣病などの予防になる。もっと普及させたい」と話す。

 毎回運動が長続きしない人でも、特別な器具も場所も必要としないスローピングなら毎日続けやすい。あまり気張らずに、まずは朝の出社時間や家事の合間などを利用して始めてみてはいかがだろう。

(上林由宇太)

≪ホームページ≫

◆基本的な情報を得るには「国際スローピング協会」のホームページ(http://sloping.shichihuku.com/

≪本≫

◆個人に応じた運動方法を知りたい人には「スローピングでピンピン・スタスタ・介護なし」(奈良岡紘子、花伝社)




糖尿病の指標変更に注意を (2012.03.06 医療新世紀)

HbA1c、4月から、日本独自から国際標準へ

健康診断の結果を見ると「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」という項目がある。糖尿病の診断や血糖のコントロール状態の把握に使われる指標で、血液検査で得られる。その数値の表記方法を4月から変更すると日本糖尿病学会 が発表した。

従来、国内の医療現場では日本独自の「JDS」という値を使ってきたが、国際標準の「NGSP」を正式な値とする。両者の間には0・4ポイントの差があるため、病状の誤解など混乱も起きかねない。患者と医療側双方に注意が必要だ。
 
グローバル化
 HbA1cは、赤血球の中にあって全身に酸素を運んでいるヘモグロビンの特定部位に、血液中の余分なブドウ糖が結合したもの。全ヘモグロビンに占める割合(%)で示される。
 血糖値は食事や運動によって短時間に変動するが、HbA1cは過去1~2カ月の平均的な血糖値を反映する。数値が高いと慢性的な高血糖を意味するため、血糖値と並んで糖尿病の有力な指標となっている。
 海外では 1990年代に米国で使われ始めたNGSPが広がったが、国内では 別の測定条件に基づくJDSが普及した。ただ、測定精度の違いから、JDSの方が数値が小さくなるずれが生じた。昨年、両者の間の換算式が確定。JDSに原則0・4ポイントを加えた値をNGSPとすることが決まった。

日本糖尿病学会理事長の門脇孝・東京大教授は「ほとんどの国がNGSPを使っている。グローバル化に対応するためNGSPにそろえることにした」と説明する。
 
0・4ポイント上乗せ
 糖尿病の治療法や医薬品の研究開発は国際的な連携や競争が進む。学会は、日本だけ独自のHbA1cを使い続けると、海外からの不信や無視を招いたり、海外の情報を国内で誤って解釈したりしかねないと判断。既に論文や学会発表などの学術分野では事実上、NGSPを使ってきた。
 今回はさらに、病院や診療所など日常の診療でもNGSPを基本とすることを決めた。4月1日からHbA1cによる糖尿病の診断基準は、JDSで「6・1%以上」とされていたものが「6・5%以上」に変わる。また、優、良、可(不十分、不良)、不可の区分で設定されている血糖コントロールの評価指標も、それぞれ0・4ポイント上乗せした値に変更される。
ただし実際の表記については当面、NGSPに加えてJDSも併記し、「HbA1c(NGSP)」「HbA1c(JDS)」のように、どちらの数値かを明示する。

混乱の種
 患者や医療関係者などで構成する日本糖尿病協会理事長の清野裕・関西電力病院長は「患者が自分のHbA1cが悪くなったと勘違いしたり、血糖コントロールの指標が上がることで治療目標が甘くなったと誤解したりしては困る」と話す。
 医療側についても「患者の血糖コントロールが悪化したと間違えると薬の増量につながりかねない」(門脇さん)との懸念がある。
 さらに混乱の種になりそうなのが、中高年を対象とした国の特定健診・特定保健指導、いわゆるメタボ健診では、来年3月31日までJDSだけが使われることだ。情報処理システムに大掛かりな変更が必要なため、今年4月の同時改定が見送られた。
 学会はホームページで市民に対し「一番大切なのは、自分が見ているHbA1cがJDSかNGSPか確認すること」と訴えている。また、ポスターやパンフレットを配布して周知に努めるという。(共同通信 斎藤香織)




すっきり早起き 正しい睡眠リズム大切

春眠暁を覚えず-とはいえ、新年度がスタートして、早起きしなければならない人も多いのでは? 正しい睡眠リズムは、快適な目覚めをもたらし、体調にも影響する。リズムを保つこつなどを専門家に聞いた。 (竹上順子)
 「この時季に多いのが、朝起きられないという新社会人や学生の相談。夜型の生活が長かった人ほど、睡眠リズムを正常に戻すのに時間がかかる」。睡眠医療認定医で、むさしクリニック(東京都小平市)院長の梶村尚史さん(精神医学・睡眠医学)はこう話す。
 人間の体の働きは体内時計にコントロールされ、各時間帯の活動に合わせて、ホルモン分泌などが行われる。だが人間の「概日(がいじつ)リズム」は約二十五時間。毎朝日光を浴び、食事を取らないと、体内時計はリセットされず、生活リズムは後ろにずれていってしまう。
 学生時代や長期休暇では就寝や起床、食事の時間は不規則になりがち。新生活が始まってから変えようとしても、眠気などに関わる身体内部の「深部体温」の上昇や下降、ホルモン分泌などのリズムはすぐには同調せず、睡眠を含めた生活リズムが整うまでには、時間がかかるという。
 明け方近くに寝て、昼前後に起きる「睡眠相(そう)後退症候群」になった場合は治療が必要だ。「光治療器の使用や(睡眠ホルモンの)メラトニン投与を行うが、正常に戻すには数カ月かかる」と梶村さん。「予防には、平日も休日も一定の時間に起きるように」と強調する。
     
 「良い睡眠と目覚めには、リズムが大切」と、睡眠環境の研究などを行う「エスアンドエーアソシエーツ」(同中央区)常務で、睡眠改善シニアインストラクターの安達直美さんは話す。休日に長く寝たい場合は「就寝を一時間早く、起床を一時間遅くするなどして"中心"はずらさないで」と助言する。
 「眠気」の出現にもリズムがある。日光を浴びると、メラトニン分泌が抑制されて眠気が取れ、約十四時間後に再び始まる。その一~二時間後に眠気が起きるため「起床後三時間以内に、四十分ほど光を浴びるといい」と安達さんは話す。
 浴びる光は電灯では不十分なため、窓際や屋外がいい。反対に、寝る直前までテレビやパソコンなどの電子機器を使っていると、メラトニンの分泌が抑制され、良い眠りを得られなくなる。
 また「睡眠欲求がたまるまで約七時間かかるので、夕方の仮眠はやめた方がいい」と安達さん。昼寝は午後三時までに、十五分程度にするよう勧める。ほかにも睡眠の質を高めることで、気持ちの良い目覚めにつなげられる=イラスト。
 睡眠中は、脳が活動するレム睡眠と、深い眠りのノンレム睡眠が交互に現れる。スッキリ目覚めるには「ノンレム睡眠からレム睡眠に移っていく段階で起きるといい」と安達さん。体の動きから睡眠の状態を感知し、最適なタイミングでアラームを鳴らす腕時計や、スマートフォンのアプリケーションなどもあり、「上手に活用を」と話す。
     
 意外に気づいていないのが睡眠不足。
 梶村さんは「平日と休日の睡眠時間の差が三時間以上ある人は、睡眠時間が足りていない」と指摘する。休日の「寝だめ」は避け、平日の睡眠時間を十五分ほど増やすことと、ネットなどの趣味は朝にするよう勧める。
 安達さんは「レム睡眠はストレスを解消してくれるが、後半に多く現れる。睡眠不足になるとレム睡眠が削られるので注意を」と話している。

日常生活に支障をきたす「口内炎」の予防になる食べ物

ご飯を食べるときにしみたり、話すときに痛かったり......。口内炎ができてしまって悩んだことは、誰でも一度はあると思います。

口内炎は外から見える部分ではないので、地味~に痛い! そして、この地味な痛みにじわじわと苦しめられてしまいますよね?

今回はそんな口内炎ができてしまう原因と、予防する方法についてお話しします。

■そもそも口内炎とは?■

口内炎とは名前のとおり口の中にある粘膜、頬や唇の裏や歯茎、舌にできる炎症のことをいいます。一般的には"アフタ性口内炎"という表面が白く窪んでいて、痛みを伴うものが多いそう。

通常は12週間で治るのですが、できる場所によっては治りにくく痛みが長引くこともあります。

■口内炎ができる原因■

酷くなると日常生活にも支障をきたす口内炎。では、この口内炎は何が原因でできるのでしょうか? なんと9個も原因がありました。

あなたは今、口内炎予備軍になっていないかどうか、是非チェックしてみてください。

・睡眠不足

・ビタミンなどの栄養不足

・ストレス

・ウイルスやアレルギー

・風邪をひいたり胃腸が弱っている

・疲れが溜まっている

・誤って口の中を噛んでしまった

・硬いものを食べるときに口の中に傷を作ってしまった

・歯磨きを強くしすぎる

いかがでしたか? どれかひとつでも当てはまったら要注意! 生活習慣を見直し、規則正しい生活を送れるよう、少しでも工夫してみてくださいね。

■口内炎を作らない食べ物■

とはいえ、なかなか習慣を変えられない人も多いはず。そんな人は、口内炎を作らないようにする食べ物を積極的に摂るようにしてみましょう。

例えば、以下の食べ物が予防に効果的です。

・口の中の粘膜を保護するビタミンB2B6が含まれている食べ物

(ほうれん草、小松菜、にんじん、うなぎ、レバー、納豆、アボカドなど)

・口の中の粘膜を丈夫にし、細菌に対する抵抗力を上げるビタミンAが含まれている食べ物

(春菊、卵黄、ニラ、サニーレタス、パセリ)

また、サプリメントで栄養を補うのなら、ビタミンB群をオススメします。他には、ドラッグストアで売っている口内炎パッチや塗り薬も回復を早めてくれます。

試してみて、それでも2週間以上治らないときは、舌癌など違う病気が関係していることもあるので、耳鼻咽喉科または口腔外科の診察を受けてください。

食事や会話に支障をきたす口内炎。できてしまってから後悔するまえに、日頃から口内環境にも気を使うようにしましょう!

睡眠不足はメタボを招く?!

1日24時間のうち、睡眠時間を減らして日中の活動量を増やすと、肥満を防ぐことができそうだが、実はその逆。米国の研究で睡眠不足はメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)を招くことが分かってきた。食事と運動、そして適切な睡眠があって初めて生活のリズムが整うという。睡眠の質や時間とメタボはどのように関係しているのか、"睡眠治療"のスペシャリストである日本大学医学部付属板橋病院睡眠センター長の赤柴恒人教授に聞いた。(大家俊夫)

news_003_1.jpg

満腹感得られず過食の要因に

 ◆ホルモンの分泌狂う

 「睡眠不足の人は太りやすいということは、米国の研究論文をはじめ、世界の研究者によって疫学的に証明されている」と赤柴教授は語る。

 その研究の一つが米国のシカゴ大学による研究だ。同研究では、4時間の睡眠時間で2日間過ごした後と、10時間の睡眠時間で2日間過ごした後のホルモン量を同じ若者12人で比べたところ、4時間睡眠の場合、満腹感をもたらすホルモンであるレプチンは下がり、食欲を刺激するグレリンは上がるという結果になった。レプチンは脂肪細胞から出るホルモンであるのに対し、グレリンは胃から出るホルモンだ。赤柴教授は「これらのホルモンの分泌が狂うと、満腹感が得られず、食欲が増進され、肥満につながるという負のスパイラルに陥ってしまう。睡眠不足は過食をもたらすことが、科学的に明らかになった」という。

 睡眠不足は肥満にとどまらない。メタボの先にある糖尿病につながることもシカゴ大の別の研究で示されている。この研究では、健康な若者11人が参加し、4時間の睡眠時間で6日間過ごした。その結果、11人とも耐糖能障害(ブドウ糖を処理する能力が落ちた状態)、糖尿病の一歩手前の状態になったという。その原因は血糖値(血液中のブドウ糖の量)を下げる働きをするホルモンであるインスリンの効きが悪くなる状態、つまり「インスリン抵抗性」に陥ったことになる。また、睡眠不足による過度の緊張から高血圧症になる可能性もあることも報告されている。

 「メタボや糖尿病、高血圧、高脂血症などの治療を医師の指示どおりに行っている人で、数値や体調が思うように改善しない場合に、睡眠不足が思い当たる人は、十分な睡眠時間を確保することで改善する可能性は高い」という。

 ◆無呼吸症候群の可能性も

 肥満が助長されると、睡眠不足よりも怖い、睡眠時無呼吸症候群(SAS)にかかる可能性が高まる。「肥満により、のどが狭くなり、寝ると気道がふさがれてしまうのが原因だ。欧米では9割、日本でも6割の患者が肥満でSASを引き起こしている」

 SASは、睡眠時に10秒以上呼吸が止まる状態が1時間に5回以上起こると診断される。1回の無呼吸状態が1分以上になる人もまれではなく、2分くらい止まっている人もいる。

 日大医学部睡眠学・呼吸器内科学分野の研究によると、SASの重症度が上がれば上がるほど、メタボを併発している割合は増え、重症のSASの場合は、約4分の3がメタボを併発している。SASという病態そのものがメタボを起こしやすいことが分かってきた。

 それでは、理想的な睡眠時間は、どのくらいだろうか。一般的には7時間がベストだとされているが、赤柴教授によると、個人差があるので一概にはいえないという。

 「多くの研究では、平均睡眠時間が7時間の人が、最も死亡率が低いという結果になっている。しかし、個々の人に必要な睡眠時間には幅があり、多くの人は6~8時間くらいの間だ。確実に異常といえるのは5時間以下、10時間以上の睡眠で、多すぎても少なすぎてもよくない」(赤柴教授)

 ただし、高齢者になると睡眠時間は減り、質も落ちるので、時間を気にしすぎる必要はないという。逆に子供、とくに小学生ぐらいまでは10時間くらい寝るのはごく普通のことで、発育の関係でもいいそうだ。

 睡眠が不足すると集中力が欠け、仕事ばかりでなく、生活するのに必要な日常のあらゆる動作に不具合が生じ、生活の質(QOL)が阻害される。そして不眠が続くと、鬱病になりやすくなる。鬱病患者の症状で最も多いのが、睡眠障害だ。睡眠障害は、ベッドやふとんで横になっている時間は十分でも、眠れない、眠った気がしない、眠りが浅い、そのため日中に眠くて仕事がはかどらないなどの問題を抱える状態、つまり質の悪い睡眠になってしまっている。「これらのことに思い当たる場合は、専門医を受診した方がいい」と赤柴教授は話している。(取材協力 タニタ)

【プロフィル】赤柴恒人

 あかしば・つねと 昭和50年、日本大学医学部卒。米ワシントン大学ハーバービューメディカルセンター留学などを経て、平成19年4月、日大付属板橋病院睡眠センター長、同年8月に日大医学部内科学系睡眠学・呼吸器内科学分野教授に就任

 □眠りの「質」も大切な要素

簡易検査機器で自ら管理

睡眠は健康の基本で、体に休養を与えて、翌日の活動に備えられるものだ。理想の睡眠を得るにはどうしたらいいのだろうか。

 睡眠中は、生命活動に必要な代謝量が、起きているときに比べて落ちる。赤柴教授は「睡眠時の呼吸の回数や血圧、脈拍などの循環器系の活動量は、日中に比べて10~15%落ちることが各種の研究によって分かっている。このように活動を抑えて十分休養を与え、昼間に活動できるような心身の状態にするのが理想的な睡眠といえる」と語る。

 睡眠には、体は休んでいるが脳は活動しているレム睡眠と、体も脳も休んでいるノンレム睡眠があり、人は眠っている間にこの2つの睡眠を繰り返している。睡眠のリズムができれば、良い睡眠となるのだが、実際には寝付きが悪かったり、途中で目覚めたりすることも少なくない。

 理想的な睡眠を得るには、「時間」はもちろん、「質」も大切な要素となる。

 睡眠の質を高めるには(1)毎日同じ時間に起きて生活のリズムをつくる(2)寝る前にぬるめの風呂に入る、軽いストレッチをするなどしてリラックスする-ことが大切という。(1)をなかなか実践できない人は、自分の生活習慣や仕事時間などを抜本的に見直して、睡眠時間を確保することも必要だ。(2)は、血行を促進して体温をやや上昇させ、眠るときに体温をやや下げると、快眠につながる。子供は眠気が出ると放熱し、やがて自然と体温を下げる。子供はこの快眠のメカニズムをごく自然に働かせているので、あえて睡眠前に体温をやや上昇させる必要はない。

 ただ、そうした努力をしても、不眠や睡眠障害という状態になることはある。

 その場合は専門病院で、睡眠状態を知る終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査を受けた方がよい。被験者は1泊入院し、脳波、呼吸状態、動脈血酸素飽和度、体位、心電図などを測定する。検査自体は痛みなどを感じるものではないが、さまざまな機器を体に取り付けたまま長時間過ごす必要があるので、煩わしかったり、苦痛に感じる人も中にはいる。

 そうしたこともあって近年、自宅で、基本的には寝ているだけで検査ができる簡易型の睡眠計を各メーカーが開発し、販売されている。赤柴教授は「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診断は、PSGで正確にはかる必要がある」と前置きしつつ、「簡易検査機器だと苦痛もなく、気軽に調べられる。簡易検査機器では医療的な診断はできないが、病院に行くべきかどうか悩んだ場合のスクリーニング(病気でない人をふるい分けること)には有用になる可能性がある」との見解を示す。

 睡眠は1日の約30%を占める大切な時間だ。日々工夫して適切な良い眠りを得ていくことは忙しい現代でますます求められている。

「撲滅運動キャンペーン」に取り組んでいます

 産経新聞社では、「メタボリックシンドローム撲滅のためのキャンペーン」に取り組んでいます。詳しくは、メタボリックシンドローム撲滅委員会専用ホームページ(http://metabolic-syndrome.net、metabolic-pro.net)まで。

 【主催】メタボリックシンドローム撲滅委員会、産経新聞社、フジテレビジョン、ニッポン放送、フジサンケイ ビジネスアイ

 【後援】厚生労働省、日本肥満学会、日本動脈硬化学会、日本高血圧学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会、日本腎臓学会、日本心臓病学会、日本血栓止血学会、日本歯科医学会、日本歯周病学会、日本抗加齢医学会、日本CT検診学会、日本人間ドック学会、日本総合健診医学会、日本食物繊維学会、日本内分泌学会、日本プライマリ・ケア連合学会、日本医師会、日本臨床内科医会、日本歯科医師会、日本栄養士会、日本薬剤師会、健康・体力づくり事業財団、日本健康運動指導士会、日本フィットネス産業協会、日本生活習慣病予防協会、全国保健師長会、日本糖尿病財団、日本心臓財団、日本製薬工業協会、日本ウオーキング協会、日本看護協会、健康保険組合連合会、日本OTC医薬品協会、日本健康スポーツ連盟、健康日本21推進全国連絡協議会、サンケイリビング新聞社、扶桑社

 【協力団体】高尿酸血症・メタボリックシンドロームリサーチフォーラム

 【メタボリックシンドローム撲滅委員会】委員長 松澤佑次・住友病院院長(日本肥満学会前理事長)◇委員 門脇孝・東京大学大学院教授(日本糖尿病学会理事長)、島本和明・札幌医科大学学長(日本高血圧学会前理事長)、北徹・神戸市立医療センター中央市民病院院長(日本動脈硬化学会理事長)、齋藤康・千葉大学学長、渡邊昌・生命科学振興会理事長、中尾一和・京都大学大学院教授(日本肥満学会理事長)