最近、日本や米国でコレステロールの摂取制限を設けないとするガイドライン(指針)が発表されている。食事から取ったコレステロールの量と、体の中のコレステロール値との関連を示すエビデンス(根拠となる研究結果)が不十分なためで、メディアは「コレステロール摂取制限は不要」と大きく報道している。しかし、日本動脈硬化学会は5月1日、東京都内で記者会見を開き、コレステロール制限不要は「全ての人に当てはまるわけではなく、解釈には注意が必要」と説明した。
制限すべき人もいる
米国では、2013年発表の「心血管疾患リスク低減のための生活習慣マネジメントのガイドライン」、今年2月発表の米国民食事ガイドラインに関する諮問委員会の報告書で相次いで「コレステロール摂取の制限を設けない」との新たな推奨を発表。日本でも、今年5月発表の「2015年日本人の食事摂取基準」で同様の推奨をしている。
この方針転換は話題となり、「食事からのコレステロール摂取上限が撤廃」「(コレステロールを多く含む)卵を何個食べても大丈夫」などと大きく報道された。
しかし、本当にコレステロールを気にしない食事をしてよいのか―。体の中のコレステロール値は動脈硬化などに大きく関わるが、日本動脈硬化学会の佐藤靖史理事長(東北大学加齢医学研究所教授)は、一連の報道について「断片的で、誤解を招く部分があった」と指摘。いずれの指針も、健康に問題のない人が主な対象とされているためだ。
同学会の武城英明理事(東邦大学医療センター佐倉病院臨床検査部部長)は「学会として、健康な人の脂質摂取に関わる記載には賛同する」としつつ、報道などによって悪玉コレステロール値が高い人(高LDLコレステロール血症)にもコレステロール制限が必要ない、との誤解が広がることに懸念を示す。
悪玉コレステロール値高い人は平均以下を
体の中のコレステロール値は、食事から反映されるのは2割に過ぎず、8割は体の中で合成されるという。その一方で、食事からのコレステロールの吸収率は、人によって20~80%と、個人差が大きいことも指摘されている。食事からのコレステロール量と体の中のコレステロール値との関連を示すエビデンスが「不十分」と判定されているのは、このためだ。
しかし、ハワイに移住した日本人や沖縄県での研究などで、体の中のコレステロール値が高いことと心臓病になる危険性との関連も指摘されている。また、余分なコレステロールは運動で燃焼されることなく、血液の中や血管などにたまっていき、動脈硬化の進行につながる。
そのため同学会は、悪玉コレステロールの値が高い人の食事について「個人差を考慮し、日本の平均摂取量を下回るようにすることで、薬の治療を始める前に生活習慣の改善による効果を確認すること」などが望ましいと強調。健康な人に対する「摂取上限なし」は、必ずしも当てはまらないとの立場を改めて示した。
玄米などがオススメ
なお、同学会の丸山千寿子評議員(日本女子大学家政学部教授)は「太っていて脂肪細胞を多く持っていることそのものが、コレステロール値の上昇を招く。コレステロール値が高い人は、体の中でコレステロールを合成する能力も高まっている」と説明。そのため、コレステロールや脂肪を多く含む食品を控えるのが望ましく、例として「1日に卵黄を2~3個以上食べることなどは勧められない」とした。
一方で、脂質異常症の人に勧められる食事として、以下の点をポイントとして挙げている
丸山評議員は、中でも「未精製の穀類は余分なコレステロールを体の外に出す水溶性の食物繊維が豊富。そのための一品を新たに準備しなくても、白米から切り替えるだけでよいので負担が少なく、有効性も高い」と助言。ただし、果物については「中性脂肪が上昇する人がいるので、日常生活で楽しむ程度が望ましい」と述べた。