ウオーキングの5倍の効果 スローピング運動とは 心肺機能の向上も (2012/4/15 日経新聞)

傾斜(スロープ)を利用した健康運動「スローピング」が関心を集めている。坂道や階段の上り下りを繰り返すだけ。特別な器具がいらないお手軽な運動にもかかわらず、ウオーキングを上回る効果が見込めると専門家は指摘する。普段使わない筋肉を鍛えられ、心肺機能の向上も期待できるという。実際に導入する自治体も出始めた。

「スローピング」に取り組んで効果をあげている「デイサービス邑」(東京都大田区)

 「イチ、ニ、イチ、ニ......。はい、ちょっと休憩しましょう」――。東京都大田区にある「デイサービス邑(ゆう)」で、掛け声が響く。介護が必要な高齢者18人が上り下りの動作を繰り返していた。体力測定の踏み台昇降のような動きだが、段差は10センチメートルほどに抑えている。思うように脚が動かず苦労はしているものの、手すりを握っている姿はみな懸命だ。

 この施設は7年前、運動メニューの中にスローピングを取り入れた。ストレッチやスクワットの後に、踏み台でスローピング運動をする。3分間の昇降を休憩を挟みながら10回繰り返す。1年半前から施設に通う92歳の男性は「スローピングを始めてから、しっかり歩けるようになった。他のみんなも元気になったようにみえる」と笑顔で話す。

 「90歳を過ぎても、運動能力が向上する高齢者を何人も見てきた。来所当初は携帯酸素ボンベを手放せなかったが、スローピングを始めてから持ち歩く必要がなくなった人もいる」。デイサービス邑に勤める介護士、幸島アキ子さんはこう話す。介護士や家族の負担を減らすことにもつながっているという。

◆山岳地帯にヒント◆

 スローピングは埼玉県に暮らす奈良岡治成氏が考案。1997年に国際スローピング協会を設立し、普及活動を進めてきた。「ヒマラヤなど山岳地帯や高地に暮らす人は足腰が強くて寿命が長い。これをヒントに高低差を利用した運動法を思いついた」と奈良岡氏は説明する。手軽な運動で高齢者向けと思いがちだが、中年や若者にも効果がある。

 実践する場所は階段でも坂道でも構わない。階段を使うときは、まず前向きで5~10段上り、次に体の向きを変えずに下る。こうした動作を繰り返す。背筋を伸ばし、靴底全体で着地するよう心掛けるのがポイントだ。最初のうちは10分を目安にし、慣れてきたら20分間続けるように心がける。

 坂道の場合、初心者なら傾斜が5~10度の道を選び、100歩ずつ上り下りを繰り返す。20分程度、20往復を目安にする。自分のペースで距離や時間を徐々に延ばしていけばよい。腕をしっかり振り、できるだけ大股で歩くと効果は高くなるという。

◆特別な器具不要◆

スローピングはウオーキングなどの有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせた運動といえる。運動法の効果を研究する早稲田大学の川上泰雄教授は「平らな場所を歩くウオーキングに比べ、同じ時間で5倍の効果が期待できる」と強調する。階段を上り下りする動作は平らな場所を歩くときよりも高く蹴り上げるため、歩幅が広くなり、つま先が上がって転倒しにくくなるという。

 「思うように歩けず、つえをついてやっと歩ける人に向いている」。提唱者の奈良岡氏が高齢者向けと勧めるのが「1段活用法」だ。ひとつだけしかない低い段差の踏み台を使い、昇降動作を繰り返す。市販の踏み台を活用できるほか、牛乳パックや段ボール箱も流用できる。冒頭に登場するデイサービス邑以外にも導入する介護施設は出てきた。青森県深浦町は昨年、専用の昇降台を購入し、各地の集会所で高齢者向けのスローピング教室を実施している。

 「スローピングは高齢者の生活の質の向上につながる」。スローピングを推薦する弘前学院大学の吉岡利忠学長はこう言い切る。「医療現場で活用するのはもちろん、若いときから続ければ、生活習慣病などの予防になる。もっと普及させたい」と話す。

 毎回運動が長続きしない人でも、特別な器具も場所も必要としないスローピングなら毎日続けやすい。あまり気張らずに、まずは朝の出社時間や家事の合間などを利用して始めてみてはいかがだろう。

(上林由宇太)

≪ホームページ≫

◆基本的な情報を得るには「国際スローピング協会」のホームページ(http://sloping.shichihuku.com/

≪本≫

◆個人に応じた運動方法を知りたい人には「スローピングでピンピン・スタスタ・介護なし」(奈良岡紘子、花伝社)




このニュースについて

このページは、Uクリニック竹内歯科が2012年4月23日 09:54に書いたニュースです。

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