「年を取ると甘い物が欲しくて」とご高齢の患者さんは言う。その甘い物とは、砂糖が含まれているあめが多い。そうした人によく見られるのが歯頸部(しけいぶ)(歯肉との境目)の虫歯。この虫歯は非常に予後が悪く治療に時間がかかる。歯肉の下まで虫歯が深く進んで治療がやりにくく、そして広範囲、急性、多発性である。
その理由の1つは、歯周病や加齢で歯の根面(こんめん)が露出しているためである。歯冠部のエナメル質は外界と接するため外胚葉性(がいはいようせい)組織で酸にも強いが、根面のセメント質は歯槽骨と接する中胚葉性組織のため酸に非常に弱い。そしてセメント質が無くなって表面に出てくる象牙質も酸に非常に弱い。また、あめは口の中に長くあるため、口の中が長時間酸性を保つ。
アルツハイマーや手が自由に動かない等の要因もあり、短時間で多くの歯がまるで木が根から折れるように失われていく。歯根は残ったままなので、細菌数も増殖する。こうした歯周病を含めた口腔(こうくう)内細菌は免疫が落ちた高齢者を誤嚥性肺炎にしていく。そして多くの方が肺炎で苦しんで亡くなる。
実際にそうした症例に遭遇しても、何とかかめるようにするのが精いっぱいである。高齢化社会への対応は、訪問治療や送迎など歯科からアプローチする「医療が出向く時代」になってきたと言える。保険医療制度など公的な対応が十分であることが望まれる。そして、あめはノンシュガーのタイプにすることも忘れずに。(静岡県歯科医師連盟評議員 鈴木龍)