妊娠中の喫煙が孫にまで悪影響、米動物実験 (2012年11月30日 18時30分 メディカルトリビューン)

◆ニコチンによるぜんそくへの影響

 妊娠中の喫煙は胎児にさまざまな影響を与えると報告されており、ぜんそくなどの呼吸器の病気もその一つとされている)。ところがこの影響は、胎児だけでなくさらに次の世代まで引き継がれる可能性があることが分かった。米ロサンゼルス生物医学研究所のVirender K. Rehan氏らが英医学誌「BMC Medicine」に発表した論文によると、母ラットが摂取したニコチンによるぜんそくへの影響は胎児ばかりでなく、胎児の将来の子、つまり母ラットの孫にまで同様の影響を与えるという。もちろん、子ラットが親になるまでに一切ニコチンを摂取していなくても。

◆疫学的・実験的に示された孫への影響

 近年、著しい増加傾向にある小児ぜんそくの原因の一つとして、妊娠中の母親の喫煙が挙げられる。米国人女性の12%は妊娠中も喫煙を続け、その結果、少なくとも年間40万人の新生児が母体内でニコチンにさらされていると考えられている。

 さらに、2005年に南カリフォルニアで行われた疫学研究では、母体内でニコチンにさらされた新生児は、出生後から親になるまで一切喫煙歴がなくても、その子供が小児喘息になりやすい傾向があると報告された(「Chest」。つまり、妊娠中に喫煙した母親の影響は、その子供ばかりではなく、孫にまで影響を及ぼす可能性が示唆されたのだ。

 この疫学的事実を実験的に確かめる目的でRehan氏らは、母ラットにニコチンを投与すると子ラットに小児ぜんそく症状が起きることを確認、さらに「PPARγ(ガンマ)」というタンパク質を活性化させる「ロシグリタゾン(rosiglitazone)」(日本未承認、海外では糖尿病治療薬として使用)をニコチンと同時に母ラットへ投与すると、子ラットのぜんそく症状が抑えられたと、昨年に報告している(「American Journal of Physiology Lung Cellular and Molecular Physiology」。

 今回の報告では、子ラットにはニコチンを投与していないにもかかわらず、孫ラットにも同様の症状が有意に生じること、孫ラットの症状も孫ラットを妊娠中の子ラット(孫ラットの母ラット)へのロシグリタゾン投与で抑制できることが示された。

◆エピジェネティック変異が鍵

 さらにRehan氏らは、ニコチンがぜんそく症状を引き起こすメカニズムを探る目的で、母ラットに投与したニコチンが、子ラットに後天的な遺伝子変異であるエピジェネティック変異※1を起こすかどうかを調べた。その結果、肺でのDNAメチル化※2には変化がなかったものの、DNAに結合するタンパク質「ヒストン」を見てみると、ヒストンH3のアセチル化※3は上昇、ヒストンH4のアセチル化は減少していた。

 ニコチンと同時にロシグリタゾンを投与することで、肺におけるヒストンH3のアセチル化上昇のみが抑えられたことから、ニコチンの作用はヒストンH3のアセチル化を介したものであることが示唆された。もちろん、ロシグリタゾンだけの投与では、どのエピジェネティック変異も起きることはなかった。

 最後に、ニコチンの作用が孫の代まで引き継がれたメカニズムに関しては、今回の研究ではほとんど言及されていない。しかし、上記のエピジェネティック変異が、単純に次世代へと継承されたわけではない可能性が指摘されている。というのも、胎児の体の中にはすでに将来の生殖細胞(精子や卵子など)の元となる「始原生殖細胞」があり、ニコチンはその細胞に直接作用した可能性があるからだ。

 いずれにせよ、もしこの小児ぜんそく症状がさらに次の世代(ひ孫)以上にまで引き継がれれば、エピジェネティック変異の遺伝である可能性が高くなるため、Rehan氏らは引き続き観察を続けていくとしている。

(サイエンスライター・神無 久)

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このページは、Uクリニック竹内歯科が2012年12月 5日 09:35に書いたニュースです。

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