広島大大学院医歯薬保健学研究院の先端歯科補綴(てつ)学などの研究チームが、歯を失うとアルツハイマー病の症状が悪化することをマウスの実験で証明した。9月1日号の英科学誌に掲載される。アルツハイマー病の予防や症状の軽減につながると関係者も注目している。
研究チームは、3月まで同研究院教授だった赤川安正・奥羽大学長や、道川誠・名古屋市立大大学院教授(生化学)たち。複数のマウスに軽度のアルツハイマー病を人工的に発症させ、奥歯を抜いたマウスと歯を残したマウスの行動を4カ月後に比較した。
その結果、歯を残したマウスは、発症前と同様に、学習した行動ができたが、抜歯したマウスはできなくなった。
アルツハイマー病の原因とされるタンパク質ベータアミロイドの蓄積量には変化がなかった。一方、脳内で記憶をつかさどる海馬の細胞の面積が、抜歯したマウスでは小さくなっていた。
このことから、歯のかみ合わせがなくなることで、脳への刺激が減るなどし、アルツハイマー病の症状を悪化させたとみている。赤川学長は「実験と脳の解剖結果の両面で、歯と症状悪化の関連性を初めて裏付けられた」と説明する。
日本認知症学会理事長で、大阪市立大大学院の森啓教授(脳神経科学)は「残った歯の数が認知症予防に重要であるとの報告はこれまであったが、メカニズムは不明だった。認知症予防に向けた確かな証拠になる。研究の今後の発展を期待したい」としている。