右目だけ閉じられない
友人と作ったブレスレットには「健康」を祈願した=三重県 |
出勤前、三面鏡をのぞき込み、まぶたに茶色のアイシャドーをのせた。でも、右目だけがギュッと閉じられない。
「昨日まではできたのに、変だな」。同僚に相談すると、「私だって、ウインクできないよ」と返された。ところが昼食で、右の歯ぐきとほおの間にご飯が詰まった。
2005年4月。大阪府の旅行会社に勤めていた大竹祥子(おおたけしょうこ)さん(35)は急に、顔の右半分が動かしづらくなった。
一人暮らしの部屋に帰宅し、インターネットで検索した。出てきたのは「顔面神経麻痺(まひ)」。顔の神経が傷つき、表情筋が動かなくなる病気のようだ。
休みの日に、実家がある三重県の病院の耳鼻咽喉(いんこう)科を受診した。「よくある『ベル麻痺』でしょう」。明らかな原因が分からず、突然顔が麻痺した場合、こう診断されることが多い。神経の炎症や腫れを鎮めるステロイド薬の点滴を受けた。
しかし、職場のある大阪の病院では、「すぐ入院して」と言われた。1週間入院し、ステロイド治療を受けることになった。会社を長く病欠したのは、これが初めてだった。
退院後、月に数回通院しながら仕事を続けた。だが次第に、右まぶたが引きつり始め、右の口角が日に日に垂れ下がった。上司も「まぶたがピクピクしてるよ」と心配そうだった。病院の医師に相談しても、「神経が回復しているんでしょう」と言われただけ。不安が募った。
夏に帰省したとき、両親に心配させまいと笑顔をつくった。でも、「全然良くなってないじゃない」と驚かれた。涙があふれた。すぐに父が知人の医師に相談し、名古屋大病院に「高圧酸素」で血流を良くして神経の修復を助ける治療があると教えてもらった。
8月8日、同病院の耳鼻咽喉科・中田誠一(なかたせいいち)さん(55)を受診。高圧酸素治療はもうやっていなかったが、腫れた神経を圧迫する骨を削る手術がある、と説明された。ただし、発症から時間が経っており、効果はあまり期待できないという。
「したいようにしなさい」という両親の後押しを受け、手術を決意した。「選択肢が一つでもあるなら、やってみよう」