頻繁に物忘れするようになり、心配になって受診したら「軽度認知障害」と告げられた―。軽度認知障害(MCI)とはどんな状態なのか。認知症とはどう違うのか。「年相応と認知症との中間。アルツハイマー病に移行する例もあるので、運動や人との交流など予防策をバランスよく取ってください」と順天堂大学医学部付属順天堂東京江東高齢者医療センター・メンタルクリニックの一宮洋介教授は話す。
生活には支障ない
年相応の物忘れは、加齢に伴って程度の差はあるが誰にでも起きる。事柄を後で思い出すことができて、物忘れをしても日常生活や社会生活に支障を来すわけではない。
認知症では物事全体の記憶が抜け落ちているので、後で思い出すことができない上、他の症状も表れるため日常生活や社会生活に支障が出てくる。
一方、軽度認知障害はこうした年相応の物忘れと認知症の中間に位置する状態。認知機能のテストは正常よりやや悪いという程度だが、日常や社会での生活にはあまり支障がない。
ただ、その後を追跡すると、軽度認知障害の約9割はそのままの状態を保つが、10~15%は2~3年のうちにアルツハイマー病に移行するという。
予防には「食べて、寝て、楽しく過ごす」
現在、軽度認知障害の治療に保険適用の薬はないが、アルツハイマー病に使われている薬を用いると進行を遅らせることができるとの研究報告がある。
また、一宮教授は「アルツハイマー病の最大の危険因子は加齢です。予防には、"おいしく食べて、ゆっくり寝て、楽しく過ごす"ことがお勧め。適度な学習と運動で体を動かすことも必要で、他人との交流を心がける。高血圧や糖尿病を予防・治療する。このうちどれか一つではなく、バランスよく実行することが大切です」とアドバイスする。
早期にこうした対策を取れば、アルツハイマー病の予防に役立つ。物忘れや言動で気になる症状があったら、医療機関で認知機能テストとともにCT(コンピューター断層撮影)検査を受けた方がよいという。アルツハイマー病以外の治療できる病気が原因の可能性もあるからだ。