口の体操「あいうべ体操」。健康法に関心がある人なら、その名前ぐらいは聞いたことがあると思います。考案した、福岡市の「みらいクリニック」院長で内科医の今井一彰さんにも話をうかがいました。
「呼吸は1日2万回もしています。1回のインパクトは小さくても、積み重なれば大きいのです」と今井さん。この問題に気づいたのは15年ほど前。病気が重い人ほど口臭が強い傾向があることから、口の中の炎症が全身に及ぼす影響に関心を持ち、鼻呼吸の大切さ、口呼吸の害について学んだそうです。そして実際、患者に口呼吸の改善を指導することで、様々な病気の症状が和らぐ例を経験しました。
口呼吸から鼻呼吸に変えるため、最初はいろいろな道具を使って体操する方法を指導していたのですが、誰でも簡単にできるようにと、あいうべ体操を考えたそうです。本人に実演してもらいました。「あ」「い」「う」の口は思い切り広げたり、とがらせたりするのがコツです。「べ」で突き出した今井さんの舌の長さには驚きました。「いつもやっているから」とのことですが、舌は筋肉の塊なので、鍛えればそうなるのかもしれません。この体操、公衆の面前では恥ずかしいですが、家の中ならいつでもできます。
あいうべ体操は口周りの筋肉全体を鍛えられますが、特に大事なのは舌の位置が高くなることです。口呼吸の人は舌が低い位置にあることが多く、舌の位置が高くなれば自然と鼻呼吸になるそうです。ため息は舌が下がるのでよくないそうで、「ため息を吐くよりは、馬のように鼻息が荒いほうがいい」とのことでした。
今井さんの取り組みは特に、口の専門家である歯科の分野で注目され、あいうべ体操を指導している歯科医院も増えています。昨年、今井さんをはじめとする医師や歯科医が一緒になって「日本病巣疾患研究会」という組織もできました。医科と歯科の連携で、新しい医療分野が発展することを期待したいと思います。