「脂が多い」「コレステロールが気になる」などのイメージで敬遠しがちな肉料理。特に食の細い高齢者は、夏の体力維持や疲労回復のために肉を食べ、動物性タンパク質を多く取るよう心掛けたい。食べやすくする調理法とともに肉食のメリットを紹介する。 (福沢英里)
多くの高齢者が住んでいる東京都新宿区の団地「戸山ハイツ」。NPO法人が、その一室で運営する「暮らしの保健室」には毎週木曜日、地域のお年寄りたちが集う。傍らの台所から、昼食の肉料理の香ばしいにおいが漂ってきた。
昼食を調理するのは、大妻女子大家政学部教授の川口美喜子さん。欠食したり、簡単に済ませたりする高齢者がいるため、昨年七月から栄養指導に通っている。「成人の生活習慣病予防が強調されるあまり、『年を取ったら肉より魚』と考える高齢者が多い」と指摘する。
夏の献立には積極的に肉料理を提案する。食べる量が減る高齢者の場合、肉なら少ない量でも、ビタミンや鉄などの栄養素が効率よく取れるからだ。この日は野菜と炒めた豚肉を、千切りキャベツと一緒にご飯に載せた「豚丼」を用意。主菜にも肉を使い、市販の焼き肉のたれに漬けた鶏肉を夏野菜と炒め、チーズとみそマヨネーズを載せて焼いたおかずも好評だった。
◇
昨年、厚生労働省が改定した健康づくり運動「健康日本21(第二次)」で、低栄養の高齢者の増加割合を抑えることが、具体目標の一つに掲げられた。長寿をかなえる食生活の目安として、東京都健康長寿医療センター研究所がまとめた指針には、動物性タンパク質を十分取る、魚と肉は一対一の割合で取る、肉はさまざまな種類を取ることなどが盛り込まれている。
一日に必要なタンパク質の摂取量は男性六十グラム、女性五十グラム。百グラムの豚ロース肉一枚なら二十グラムくらい含まれるので取りやすい。さらに卵一個(五十グラム)で六・二グラム、アジ一匹(百三十グラム、可食部は七十二グラム)で一四・八グラム、木綿豆腐半丁(百五十グラム)で九・九グラムが含まれるので、女性ならこれらすべてを食べると、一日の必要量になる。
日本獣医生命科学大客員教授の佐藤秀美さんは、食品からのタンパク質摂取量が分かる血清アルブミン値が高いほど、介護や死亡リスクが下がるといった研究結果を挙げ、「食べる量が減り、活動量が減ったと感じる高齢者ほど、意識して肉を食べてほしい」。
硬いと食べにくい人にお勧めなのが「漬け焼き」。塊肉をフルーツ入りの焼き肉のたれに漬けてもみ込むと、肉の保水性が高まりジューシーに。漬け時間は肉の大きさで変える。おろししょうがや塩麹(こうじ)を入れた調味液に漬けてもよい。
焼き方もひと工夫。厚切りなら表面に肉汁が浮かんだタイミングで裏返す。薄切りの一口大なら、表裏合わせて一~二分程度でいい。「肉の中心温度六五度が目安。これより上がると肉汁が外に出て硬くなり、食感もぱさつく」と佐藤さんは話す。