「睡眠時間は8時間がよい」「90分の倍数で起きればすっきりする」「4時間睡眠でも工夫すれば足りる」。睡眠に関する様々な言説を信じている人もいるかもしれない。これらはどれだけ科学的根拠があるのか。最近の科学研究の結果から、根拠が薄弱なケースも多いことが分かってきた。知識をもとに何が正しいかを見極めることが大切だ。
子供の頃、親や学校の先生などに「1日8時間は寝ましょう」と言われた経験のある人も多いだろう。しかし「8時間に十分な科学的根拠はない」と国立精神・神経医療研究センターの三島和夫部長は指摘する。
米国で実施された実験がある。多くの人を集めて睡眠時間を通常より短くすると、日を重ねるごとに作業ミスが増えた。例えば、4時間睡眠を2週間続けると極端に作業効率が落ちた。
■週末の時間に着目
専門家の間では「適切な睡眠時間は個人差や年齢差があり、一律に8時間と決められない」というのが共通認識。日本の成人の睡眠時間は6時間以上8時間未満が多く、通常は年を重ねるごとに時間が短くなる。
個人の適切な睡眠時間について三島部長は「週末に眠る時間がどれほど長くなったかに着目するとよい」と助言する。平日、寝不足気味だと週末の睡眠時間は長くなる傾向がある。週末も平日とほぼ同じ時間で収まっていれば、寝不足ではないと考えてよいという。
「寝だめ」の効果も限定的だ。北里大学の田中克俊教授は「睡眠が必要にならないと深く眠れない」と話す。ただ平日の睡眠不足を、週末に長く寝ることで解消する効果は期待できる。日光を浴びないと生体のリズムを作る体内時計がずれやすくなる。「土曜日はゆっくり寝ても、日曜は朝8~9時ごろに起きて日光を浴びるのがよい」(田中教授)
一方、仕事や勉学に打ち込むため、睡眠時間を削って対処したいと考える人も多いはずだ。入社3年目の20代のA子さんは仕事の幅を広げようと資格の勉強を始めた。勉強時間の捻出には睡眠時間を削るのが手っ取り早いと考え、寝具や食べ物を工夫。日中には適度に仮眠を取る方法で、夜中の寝る時間を4時間にとどめようと試みた。しかし、昼間に強い眠気に襲われ、長続きしなかったという。