心血管系疾患に対する、ココア、チョコレートの影響
そもそもこの関心は、パナマ共和国のサンブラス諸島に住むクナインディアン(Kuna Indians)と呼ばれる人々の観察研究から始まりました。
クナインディアンは、加齢に伴う高血圧や動脈硬化に悩むことがありません。ただし、パナマ市とその近郊に移住したクナインディアンは、加齢とともに血圧が上昇し、高血圧の有病率は西洋人に匹敵します。実はこの差がクナインディアンの遺伝よりも、食生活、特にココアの摂取にあると、ハーバード大学医学部ノーマン·ホレンバーグ医師らが報告しました。
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Hypertension, the Kuna, and the epidemiology of flavanols.」
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Vascular action of cocoa flavanols in humans: the roots of the story.」
サンブラス諸島に住むクナインディアンは、平均して1日5杯、移住組クナインディアンの10倍の量、成分未調整のココア飲料を摂取しています。また島に住むクナインディアンは、移住したインディアンと比較すると、塩分の消費量は同等、あるいはそれ以上で、BMI(Body Mass Index:体格指数)に有意差はありませんでした。
このことから、クナインディアンがココアを摂取するという生活習慣が、彼らの健康に影響していると考えられたわけです。
フラボノールの含有量
ココアの心血管系疾患に対する予防効果は、ココアに含まれるフラバノールが、血管内皮の機能を高めるからだと考えられています。
ただしフラバノールの含有量は作物の品種タイプ、収穫後の処理、および加工技術に依存するため、同じココアでも製品によってフラバノールの比率がかなり異なるのです。
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Flavanol and flavonol contents of cocoa powder products: influence of the manufacturing process.」
新鮮なカカオ豆や、醗酵したカカオ豆には、約10%のフラバノールが含まれています。
カカオ豆を加工したココアパウダーには約3.6%のフラバノールが含まれ、クナインディアンが消費しているのはこのピュアなココアパウダーです。
一方、市場にはフラバノールは苦いため西洋人の口に合わないからと、風味が調整されたものが出回っています。例えば、120℃までの高熱とアルカリ化による「ダッチング」という処理で溶けやすく味をマイルドにしたり、嗜好性を向上させるために砂糖、牛乳、バニラ、および乳化剤などを加えた、成分調整ココアが売れているのです。こうした成分調整ココアをたっぷり使ったダークチョコレートのフラバノール含有率は、わずか約0.5%です。ミルクチョコレートやホワイトチョコレートには、フラバノールは低いか含まれていません。
フラバノールが含まれていないとなれば、当然、本来のココアが持つ心血管疾患や高血圧への利点も残っていないのです。
成分調整ココアに比較すると、チョコレート菓子やココア飲料におけるココアの割合からしても、製品中のフラバノール含有量を保証するものではないと分かります。ココア70%のチョコレートバーが、製品によって全く異なるフラバノール含有量になり得るわけです。