8時間は寝過ぎか...睡眠時間の個人差が起こるワケ-1 (2014/8/26 日本経済新聞)

 このところ急速な進歩を遂げた睡眠の科学だが、それだけに誤解も流布している。そこで「ためしてガッテン」や「チョイス@病気になったとき」といったテレビ番組でもおなじみの第一人者、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長の三島和夫氏が、眠りにまつわる都市伝説を一刀両断。睡眠の常識と非常識を科学の視点からひもとき、日々の快眠に役立つ確かな情報を紹介します。今回は、個人によって異なる睡眠時間について。

 しょっぱなからなんだが、永久の眠り(死)を借金、睡眠を"当座の"返済にみたてたのはショーペンハウアーだ。ぐっすり眠ることで利息を多めに支払えば元金返済を求められるのが遅くなる、つまり長生きできると説いた。睡眠不足で生活習慣病や脳血管障害での死亡率が増加するという最近の知見にも通じる名言だが、一方で、眠らなくても済むなら生活に余裕が生まれるだろうなぁ......と積み上がった仕事を抱え眠い目をこすりながらため息が出る。

 米国の作家ナンシー・クレスが書いた『ベガーズ・イン・スペイン』というユニークなSF小説がある。時代は近未来、遺伝子操作の結果、眠らなくても健康に生活できる無眠人(スリープレス)が誕生した。しかし、彼らは徐々に周囲の妬みや憎悪の対象になって、社会的軋轢(あつれき)を生むことになるのだ。うーむ、週末の明け方に原稿を書いていると、その気持ち、分からないでもない。

 8時間睡眠であれば1日の3分の1、75年の人生であれば25年間は寝ているわけであるから、これがナポレオンのように3時間睡眠で済めば中学から大学時代に匹敵する余剰時間が生じる計算だ。ましてや丸々25年ともなればまさに小学校入学から結婚までの、あの独身時代と同じ長さ(注:筆者のケース)。しかも単に寿命が延びるのではない、元気生活の期間が延びるのだ。これは最近話題の健康寿命(介護の必要がなく、自立した日常生活を送れる期間のこと。WHOが2000年に提唱。厚生労働省も健康寿命を延ばす「スマートライフプロジェクト」という運動を行っている)の延長そのものではないか。

 なるほど、短時間睡眠のコツ、のような書籍がバカ受けするわけである。長短が無ければ公平だが、各種調査による現代人の睡眠時間は4時間以下から10時間以上まで実に幅広い(下図)。これはよく考えると不思議なことだ。なぜなら睡眠時間の長短は活動時間の長短であり、そのまま摂食量やエネルギー消費、捕食者との遭遇確率など生命維持に直結する大問題だからである。

日本人の睡眠時間の分布。NHK放送文化研究所編『日本人の生活時間2005』(NHK出版、2006年)から作成(イラスト:三島由美子)

日本人の睡眠時間の分布。NHK放送文化研究所編『日本人の生活時間2005』(NHK出版、2006年)から作成(イラスト:三島由美子)

 生存のために最適化され、自然淘汰を生き延びてきた人類の睡眠にそれほど大きな個人差が許容されるのだろうか。実際、他の動物ではこれほど大きな睡眠時間の個体差、日々の変動は知られていない。そこで人間に特有な睡眠時間の個人差の原因について考えてみよう。この疑問をひもとくことが快適睡眠習慣を考える大事なヒントになるからだ。


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このページは、Uクリニック竹内歯科が2014年8月29日 13:19に書いたニュースです。

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