8時間は寝過ぎか...睡眠時間の個人差が起こるワケ-2(2014/8/26 日本経済新聞)

■人間の睡眠時間の差はせいぜい2時間程度

 自分の「適正睡眠時間」を知るのは思いのほか大変だ。「8時間でも寝足りない」「5時間も寝ればすっきり」などと話している人も「その生活を1カ月続けてください」と言われればやや自信が無くなるのが普通だ。毎日8時間寝続けられるのは一般的にはかなり若い頃だけで、「目が溶けるまで寝てやる~」とベッドの中心で叫んでいた人も、しばらくすると早めに目が覚めるようになる。

 逆に寝不足に強いと豪語しつつ日中に寝オチしている人もいるが、これは反則。「いや、そんな長時間寝てないし」と弁明されても、昼寝は夜間の睡眠に大きく影響するため、単純な足し算以上の眠気防止効果がある。実はナポレオンは午睡が得意であったともいわれている。

 我々が経験的に自覚している「適正睡眠時間」は大きく以下の3つの要因で決まる。

 第1は体質で決定されている必要睡眠量、第2は睡眠ニーズに関わる生活習慣、そして第3は睡眠不足に耐える力、である。これに季節変動や加齢の影響が加わり、その時、その人にとっての適正睡眠時間が決まる。

 第1の要因、必要睡眠量を調べるのはとても手間がかかる。特殊な施設内でしばらく生活してもらい、運動や食事、午睡などさまざまな環境条件を整えて睡眠時間を毎晩脳波で測定するのだ。いずれ詳しく紹介する機会があると思うが、最近我々が行った研究の結果、実は一般人の必要睡眠時間にはせいぜい2時間程度の個人差しかないことが明らかになった。我々の睡眠時間は思いのほか公平にセッティングされているらしい。では実生活でみられる6時間以上の個人差はどのように生まれてくるのであろうか。

■夜型の人は睡眠不足に強い

 そこで第2の要因、生活習慣が重要になる。ライフスタイルによる睡眠ニーズを考えることなしに睡眠時間の長短は語れない。

 アスリートが現役を引退すると、いきなり睡眠時間が短くなるという。ごく普通のサラリーマンでさえ退職して家でゴロゴロするようになると、眠りが浅く短くなることが少なくない。消費エネルギー量と睡眠時間との間に関連があるからだ。睡眠の最大の役割は休養である。必要な時に必要な人にやってくるのだ。

 実生活で睡眠時間の長短が生じる第3の要因は眠気に打ち勝つ力に大きな個人差があることだ。例えば、メカニズムはいまだ不明だが、夜型の人は睡眠不足に強いことが分かっている。夜更かしでも朝の出勤・登校時間は変わらないので夜型の人は概して睡眠不足だ。その分、翌日には早寝をしても良さそうなものだが、昼に感じていた眠気は夜になると消えてしまい、むしろ目がさえてきて深夜にガサゴソ活動を開始するのだ。睡眠不足に強い夜型を放っておいて自然に早寝になることはない。

 一方で朝型の人にも弱みがある。睡眠リズムは規則正しいものの睡眠不足には弱く、夜勤は苦手とされている。ちなみに、メディア関係者で「朝型です!」と力強く答えた人に私は2、3人しか出会ったことはない。圧倒的多数は「夜行性」という印象。夜型にクリエイティブな人が多いのか、単なる生き残り効果か、これもまた理由は不明である。

 睡眠時間の個人差に関わる要因はさまざまあるが、上記の3点は特に影響が大きい。実生活での快眠スキルに役立つ情報も多く含まれているので、もう少し詳しく解説してみたい。そこで次回は、第1の要因、体質で決定されている必要睡眠量を取り上げる。

   三島和夫氏

   三島和夫氏

三島和夫(みしま・かずお)
1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大精神科学講座講師、同助教授、2002年米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授を経て、2006年6月より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。これまで睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者を歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。


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このページは、Uクリニック竹内歯科が2014年8月29日 13:21に書いたニュースです。

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