高齢者に多い肺炎のうち、特に注意すべきなのが、細菌が唾液や食べ物と一緒に肺に流れ込んで生じる「誤嚥性(ごえんせい)肺炎」だ。70歳以上で肺炎と診断された人の70%以上、90歳以上に限ると約95%が誤嚥性だといわれる。年を重ねるとのみ込む力がどうしても衰える。口の中を清潔に保つとともに、のみ込む機能などを高める訓練を通じて予防に努めたい。
「たんが黄色く膿(うみ)のようで汚く、息が苦しい」と訴えて医師の診察を受けた東京都内在住の70代のBさん。レントゲンを撮ると、右の肺の背中の方に白い影があり、誤嚥性肺炎を発症していると診断された。Bさんはすぐ入院し、抗生物質による治療を始めた。
空気の通り道である気管は喉の奥のあたりで分岐して左右の肺に伸びている。東京医科大学の瀬戸口靖弘教授によると、右側の管の方が太く、角度も鋭いため食べ物などが入りやすい。誤嚥性肺炎では右肺に炎症が出る例が多い。
■細菌が入り込む
通常、口から食べたり飲んだりした物や唾液は喉から食道を通って胃に送られる。嚥下と呼ぶ機能だ。のみ込む際は、食道の隣の気管に間違って飲食物などが入らないよう、ふたが閉まる仕組みになっている。誤って入っても、せきをしたりむせたりして気管の外に押し出される。
ただ、こうした働きは年とともに衰えてくる。脳梗塞の後遺症があったり認知症を患っている高齢者も多い。この結果、神経の働きなどが低下し、誤って入った物をせきで外に出す力も弱まるという。
いったん胃に入った食べ物や胃液が気管に逆流し、その中に含まれる細菌が肺に達してしまうケースもある。「高齢女性などでは、横隔膜にあいた穴から胃の上部が肺の方に飛び出すヘルニアが起きることがあり、上部にたまった食べ物が逆流しやすくなる」と瀬戸口教授は説明する。食後の3時間はなるべく横にならないようにしたい。
唾液の成分が若い頃とは異なってくることも影響している。若い人でも、唾液や飲食物が気管に入って細菌などが肺に達することはある。そんなときなどに備えて、唾液中には細菌類の増殖を抑える成分が含まれており、肺での菌の増殖を防いでいる。しかし、この成分は「若い時は多いが、年を取ると減少してしまう」(瀬戸口教授)。