口の中には約400種類の細菌類がいるといわれる。「健康な人の口の中に普通にいる菌が誤嚥性肺炎の原因になる」と福岡歯科大学高齢者歯科学分野の内藤徹教授は指摘する。
病気の後遺症や体力の低下などで歯磨きが不十分になると、歯と歯茎の間などに細菌の塊である歯垢(しこう)ができやすくなり、口の中の衛生状態が悪化する。嚥下障害とあわさって細菌が肺に入ってしまう。
高齢者に多い誤嚥性肺炎は「一般的な肺炎と異なり、何度も繰り返すことが多い」(内藤教授)のも特徴だ。入院したり、寝たきりに近い状態になると、喉周辺の筋力などが衰えがちになる。認知症なども進む結果、より誤嚥性肺炎になりやすくなる悪循環に陥りやすい。こうした中で、抗生物質が効きにくい耐性菌が出てきて治療が難しくなり、亡くなる人もいるという。
■「ゴロゴロ」に注意
Bさんのように自分でたんの異常に気づいて来院できる場合はよいが、要介護状態の人ではたんを吐くのも難しい例も多い。瀬戸口教授は「寝たきりの人などでは、右肺あたりでゴロゴロといった音がしないかどうか、周囲の人が確認してほしい」と訴える。これは外に出せないたんが移動している音だという。
肺炎の主な原因である肺炎球菌には予防用ワクチンがあるが、誤嚥性がそれ以外の細菌で起こる場合まで防ぐことは難しい。そこで重要になってくるのが、口の中を清潔に保つケアだ。国内の高齢者福祉施設の入居者を対象に、口腔(こうくう)ケアの有無と肺炎の発症率を2年間追跡したところ、ケアによって発症率を約半分に減らせたとの報告もある。
内藤教授は「口腔ケアをするとせきの反射も改善するとの報告もある。気管に入った異物を外に出す力が高まることが誤嚥性肺炎の予防につながっている」とみる。高齢者を在宅で介護する家庭を訪れる訪問診療に口腔ケアを取り入れたところ、肺炎の再発件数が減ってきたという。
誤嚥する可能性が高いかどうかを、本人や家族などが確かめる簡易的な方法もある。喉仏あたりを人さし指と中指で優しく触れ、30秒間に何回、唾液をごっくんとのみ込めるかを調べる。「3回以下だと誤嚥する可能性が高い。耳鼻咽喉科か詳しい歯科医などに相談して詳しく調べてもらうとよい」は内藤教授は勧める。
のみ込む力を鍛えるために「家庭でもできる簡単な訓練法もある」と話すのは浜松市リハビリテーション病院の藤島一郎院長だ。例えば、緊張をほぐす目的で食べる前に首を回したり、舌を左右に動かしたりする。筋力強化には額に手を当てて抵抗を加えながらへそをのぞくといった動作が有効だ。「パ、パ、パ」などと声を出す訓練や、ペットボトルに穴をあけ水を少し入れて穴からストローをさしてストローでぶくぶくと吹く訓練なども実践したい。