【佐藤陽】 そもそも口から食べ、のみ込む「摂食・嚥下(えんげ)」とは、どんな仕組みなのか。食事をうまくのみ込めず、肺に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」はなぜ起こるのか。どんな食事だったら、のみ込みやすいのか。専門家に解説してもらった。
のみ込みの仕組みについて、摂食・嚥下障害看護認定看護師で小田原市立病院に勤める小沢公人さん(50)に解説してもらった。
まず、食べ物が口に入ると、歯でかみ砕き、舌や唾液(だえき)などで、のみ込みが可能な大きさの「食塊」にまとめる。それがのどに送り込まれると、喉頭蓋(こうとうがい)というふたが倒れ気管をふさぎ、食道の入り口が開く=図。同時に鼻と口の入り口も閉じ、食べ物がスムーズに食道に流れるよう促す。「すべて0・6秒の間に起きる反射運動。途中でのみ込みをやめよう、と思ってもやめられない」と小沢さん。 12ある脳神経のうち六つがいっぺんに働く、微妙なバランスの上に成り立つメカニズムだそうだ。「どれか一つ欠けても、うまくのみ込めなくなり、食べ物が気管に入る誤嚥につながります」。脳卒中の後遺症でのみ込みが難しくなるのは、そのためだ。 のみ込み障害は、脳卒中のほか神経性の難病や呼吸器疾患などで起きる。加齢自体でも、のみ込みの反射が鈍くなったり、むせる力が衰えたりする。 ずっと寝たきりで、口を使わないこともリスクだという。認知症になると、食べ物を見てもその認識がなくなり、食べなくなることがある。「やはり口を使い続けることが大切です」 食べ物や唾液とともに細菌が気管に入り肺炎を起こすのが「誤嚥性肺炎」だ。小沢さんによると、高齢者の肺炎のうち、6~7割は誤嚥によるものだという。 鶴見大歯学部高齢者歯科学講座の飯田良平助教(42)によると、眠っている間に唾液と一緒に細菌が入り、誤嚥性肺炎で死亡するケースもあるという。脳卒中でのみ込み機能が低下したり、睡眠薬を服用したりしている患者だ。「こうしたことを防ぐには、日ごろからの口腔ケア、特に寝る前のケアが重要だ」という。 ■介護食、工夫こらす
病院や介護施設は、患者ののみ込み機能の評価をして、その人に合った食形態を選び、可能であれば常食に近いものに上げていく。「栄養ネットワーク湘南」代表世話人でクローバーホスピタル消化器科の望月弘彦医師(53)は「安全に食べられるものだけ、食べさせていればいいわけではない。うちの病院では、患者や家族とリスクについても話し合いながら、どのレベルの食事まで食べさせるか決めている」と話す。 介護食には、粘り気を出し、まとまりやすくする「とろみ剤」を混ぜることが多い。食道に到達するまでの時間を長引かせ、のみ込みの準備をする時間を稼げるからだ。小田原市立病院看護師の小沢さんによると、多すぎても少なすぎてもだめだという。多いと、のどに張りついて残りやすくなり、少ないとすぐに流れてしまう。いずれも誤嚥のリスクが高まる。 誤嚥を防ぐためには、「三角食べ」など、日本の食習慣が理にかなっている、と小沢さんは指摘する。ごはんやおかず、みそ汁やお茶(とろみをつけたお茶ゼリー)を交互に食べると、味や食感の刺激で、のみこみ反射が起きやすくなるのだという。 ■自宅でも手軽に、食べやすい食事 在宅でも手軽に作れる介護食のレシピを「ワタミの介護」栄養サービス部の麻植(おえ)有希子さん(管理栄養士)に教えてもらった。他のレシピは、麻植さんが代表世話人を務める管理栄養士らの集まり「横浜・川崎地域連携栄養フォーラム」のホームページ(http://www.yk−forum.jp/)で見られる。
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◆枝豆豆腐 《1人分の材料》 絹豆腐 100グラム(1/3丁)
枝豆 50グラム
しょうゆ 小さじ1 《作り方》 枝豆は殻から外しておく。絹豆腐と一緒にすり鉢でする。ミキサーを使っても可 《栄養》 ビタミン、ミネラルが豊富 ◆さばカレー 《作り方》 器にレトルトご飯を盛り、カレールーとさば水煮缶をのせる。電子レンジで約2分温めればできあがり 《栄養》 動脈硬化予防に有効な成分が含まれる ■摂食・嚥下の情報は ◆神奈川摂食・嚥下リハビリテーション研究会のホームページ(http://kanagawaenge.web.fc2.com/)で、摂食・嚥下外来や訪問リハビリを提供する医療機関や介護施設などが見られる。 ◆日本摂食嚥下リハビリテーション学会のホームページ(http://www.jsdr.or.jp/)で相談窓口や最新情報を得られる。 ◆藤沢市のホームページ(http://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/kenko−z/kenko/kenko/hatokuchi/okuchi.html)から、「口腔ケアハンドブック」をダウンロードできる。