臭覚異常は余命予測に有用?(2014/12/9 読売新聞)

1か月以上前から、せきが続き、睡眠も十分に取れない状態が続き、種々の咳止め薬や抗生物質を摂取した。薬剤の影響か、咳を引き起こしたアレルギーに伴う症状なのかわからないが、3週間ほど前に臭覚が失われていることに気づいた。

 いつから症状があったのか定かではないが、車の消臭剤の臭いを購入時にかいでも何の臭いも感じなかった。家に帰って石鹸せっけんやワインの匂いをかいだが、全くわからない。食事の際にも何の臭いも漂ってこない。

 アミノグリコシド系の抗生物質を投与されることによって、難聴になる患者さんがいることは知られている。この原因として、ミトコンドリアのある遺伝子暗号の違いが関係することもわかっている。

 聴神経に異常を起こす薬があるなら、臭神経に異常を起こす薬剤があってもおかしくない。と考えながら、臭覚異常の原因を検索してみたが、あれもあり、これもありで、よくわからない。副鼻腔炎、喫煙、老化など......とあり、もしかして老化の表れかと思い、落胆する。

 考え込んでいるときに、シカゴ大学で「臭覚と老化」に関する講演会が開催されることを知った。ハラハラどきどきしつつ、講演会に参加した。発表されたのは、57-85歳の3000人以上を追跡したデータである。55歳になると約20%になんらかの臭覚異常があるという。そして、臭覚異常と5年間の生存率を比較したところ、心臓病や腎臓病の有無よりも、臭覚異常と余命(この場合、5年後の生存率)の関連性の方が強い可能性が示唆された。

 ここで利用された臭覚異常を調べる方法は至って簡単である。5本のマジックペンのようなものに、5種類の異なるにおい物質を染み込ませ、においを嗅がせたあと、ボードに描かれた絵の中から、嗅ぎ分けたにおいに相当する品を選ばせるだけである。

 においは「バラ・皮革・オレンジ・魚・ペパーミント」の5種類である。4-5種類を嗅ぎ分けられると正常、2-3種類だと臭覚低下、0-1種類だと臭覚異常と定義され、この3群で判定時から5年後の死亡率が比較された。


臭覚異常群の5年後死亡率は40%??

 正常群では5年後の死亡率が10%強であったのに対して、臭覚異常群では40%弱となっていた。対象者の年齢を60歳前後、70歳前後、80歳前後で分けても、いずれの年齢層でも明らかに臭覚異常者の死亡率が明らかに高かった。講演した研究者は、臭覚異常が余命予測に有効だと強調していたが、5年以内に約40%の確率で死亡すると判定されても、頭を抱えて考え込んでしまうだけだ。老化防止のサプリを大量に飲むことくらいしか思いつかない。

 しかし、老化の進行には個体差が大きいのは事実だ。高校や大学の同級生だった人たちを眺めると、まだ40歳代にしか見えない若々しい人もいるし、70歳を超えているとしか思えない人もいる。老化は遺伝子でもプログラムされているのだろうが、苦労の程度の差も大きいのかもしれない。

 老化は目(視力)・耳(聴力)・歯(かむ力)などから現れるというが、鼻(臭覚)はこれまであまり話題にはなっていなかった。もしかすると、臭覚が老化の程度を測る、いい指標かもしれない。それを知って、あらがえるわけでもないが。

 ちなみに、講演会の時点では、私の臭覚はかなり回復していたので、5年後の生存確率は90%である。もし、回復しない状況でこの講演を聞いていたら、落ち込んでしまっていただろう。

 私は炎症性の変化と判断し、自らの意思でステロイドを利用した。そうすると2日後くらいから、臭覚が戻ってきた。今はほぼ正常である。ただし、私の場合、日本で取得した医師免許はまだ有効なので、医師としての自分を信じて診断・治療をしたが、医師でない読者は必ず医療機関を受診するようにお願いしたい。

中村 祐輔(なかむら ゆうすけ)

1977年大阪大学医学部卒業、大阪大学医学部付属病院外科ならびに関連施設での外科勤務を経て、1984-1989年ユタ大学ハワードヒューズ研究所研究員、医学部人類遺伝学教室助教授。1989-1994年(財)癌研究会癌研究所生化学部長。1994年東京大学医科学研究所分子病態研究施設教授。1995-2011年同研究所ヒトゲノム解析センター長。2005-2010年理化学研究所ゲノム医科学研究センター長(併任)。2011年内閣官房参与内閣官房医療イノベーション推進室長を経て、2012年4月よりシカゴ大学医学部内科・外科教授 兼 個別化医療センター副センター長。

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このページは、Uクリニック竹内歯科が2014年12月10日 15:41に書いたニュースです。

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